ISOの取り組み

 

利益を上げるISOへの改善

2009年10月21日 第9回ISO内部監査員大会(秋季・群馬地区)での事例報告

株式会社ビッドシステム

代表取締役 谷 径史

 

【謝辞】

 ただ今ご紹介いただきました、株式会社ビッドシステム代表取締役の谷と申します。

 この度は、内部監査員大会の場で、当社の事例報告の機会をいただきまして、ありがとうございました。

 今回の事例報告の機会は、当社にとって、これまでのISOの取組について振りかって見直す、大変よい機会となりました。

 内部監査員大会で、事例報告の機会が与えられたことを社員に話したところ、社員からは、「何を発表するつもりなのか?」「失敗ばかりで、何も満足にやれていない状態ではないか」といった意見がだされました。

 当社のISOの取組の状態は、社員の言葉通りであります。まさに失敗の連続であり、ISOの認定を取得してから、8年以上が経過しているにもかかわらず、今尚手探りの状態であります。その意味では、このような場で貴重なお時間を割いていただくことになり、申し訳ない思いもありますが、その点はご容赦いただくことにし、実際、当社でISOがどのように行なわれており、どのように役立っているかを率直に報告させていただき、そのことで何かのお役に立てれば、という思いで報告させていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 「利益を上げるISO」というテーマは、当社にとっては失敗からの切実な問題として提起されているテーマであります。

 

【会社の紹介】

 最初に当社の概要について、簡単に触れさせていただきます。

 当社は、コンピュータのソフトウェアの開発を業務としております。県内近県の制御系のメーカー様や大学などを始めとし、地元のお客様を中心に業務をおこなってきました。

 基本は、受託の開発であり、パッケージ販売や要員派遣は行なっておりません。

 当初はお客様も限定されており、リピートのオーダーが中心で、開発するソフトウェアの種類も限定されておりましたが、最近は、新しいお客様とのお付き合いもできるようになり、様々な分野でのソフトウェアをご提供させていただくようになりました。

 社員数は9名であり、内3名がパートです。

 設立は、1997年2月で、当時は5名で、有限会社ビッドシステムとして業務を開始いたしました。

 その後、2000年2月に株式会社へ改組し、2001年6月に自社ビルを群馬県伊勢崎市の赤堀地区に建てまして、現在に至っております。

 

【ISOへの取組】

 当社のISOへの取り組みは、2000年2月に、株式会社への改組を契機にして始まりました。当時、私たちは、「どうせ株式会社にするのだから、きちんとした会社にしたい」「漠然とした希望や抽象的標題をかかげるのではなく、明確な数値目標を立てるべきだ」「個人のプログラム開発技術に依拠するだけではなく、会社としての品質管理のシステムを作りあげる必要がある」といった内容を話し合いました。

 当社にとってISOは、とりたててお客様から要請されたものではなく、またISOを取得したからといって、仕事が増えるというものでもなく、「自社を次の段階へ発展させるための道具」としての位置づけでありました。

 2001年2月には、まだ正式な認定取得もしていない段階でしたが、事例報告をさせていただいたことがあります。

 2001年6月に、94年版で取得しました。当社では、当時、ソフトウェア開発の品質管理に関して、全くの手探りの状態でしたので、あえて記録に対しての要求事項が多い94年版を選択しました。

 その後、2003年10月に2000年版に移行し、来年6月に2008年版に移行する予定でおります。

 

【ISOの現状と特徴】

 次に、当社のISOの現状と特徴について報告させていただきます。

 現在、内部監査員は社員9名中7名です。この7名は全員、群馬ISO機構主催の内部監査員養成研修等、外部機関による研修を受講しております。

 当社では、現在、日常的なコミュニケーションに力点をおいております。

 コミュニケーションといっても、ISOでいうコミュニケーションですので、会議のことを意味しています。

 経営者による見直し会議は年1回12月に開催しておりますが、それ以外に品質会議が毎月1回、ISOワーキンググループが毎週1回2時間程度、プロジェクト管理台帳確認ミーティングが毎週1回1時間程度、その他不定期で、プロジェクトマネージメント研究会の打合せ、部門別ミーティングを行い、毎朝、5分程度ですが、朝礼も行なっております。このほとんどの場に、私も出席しております。その意味では、毎日がマネージメントレビューといった状態です。

 

【社員の退職で問題が露呈】

 これまでの当社のISOの取組について振り返ってみますと、山あり谷ありの状態であったように思います。

 2006年から2007年の頃、それまでメインであった制御系の業務がだんだんと少なくなってきました。それに伴い、これまでのお客様の枠を超えて、新しい分野に業務を広げていきました。

 こうした中で、2007年に、一人の社員が退職することになり、ここで問題が表面化しました。

 この社員は、売上も上げており、お客様からの評判もよく、優秀な社員でした。

 本人の健康上の問題で退職することになったのですが、業務の引継ぎをしたところ、幾多の問題が明らかになりました。まず、最新版のソースコードの管理がなされていず、今後、何を基準にして保守メンテをおこなっていったらよいかわからない状態でした。

 今にして思えば、お客様の満足優先ということのために、実際には、現場合わせの改修に終始していたのだと思います。ですから、実際には不正常な業務が進められていたのにも関わらず、お客様の評判が上がり、売上も上がるという状態が生まれてしまっていました。

 この社員が退職してから、当社では、構成管理を見直し、最新版のソースの確定作業から進めざるを得ず、このため、大変な工数がかかり、ほぼ半年がムダになり、お客様にも迷惑をかけることになりました。

 新しいお客様との関係も、また新しい問題を生み出しました。

 

【お客様とのトラブルの発生】

 当社の場合、リピートオーダーがほとんどであったため、お客様とは長いお付き合いをさせていただき、それなりの相互信頼関係が前提としてありました。しかし、業務の幅を広げるに応じて、新しいお客様も増え、プロジェクトの規模も大きくなっていきました。

 こうした中で当社としては、お客様の利益にかなうように、最善の努力をしたつもりではありましたが、それだけではうまくいきませんでした。経験や能力の不足から、プロジェクトマネージメントに失敗したこともあり、納期遅れ、仕様の漏れ、まで引き起こしてしまいました。

 要するに、新しいお客様とのお付き合いが増え、新しい分野での業務が広がるにつれて、当社のISOの質がまともに問われだしたのだと思います。

 こうしたなかで、2007年には、当社のISOが停滞してしまい、業績も悪化してしまいました。

 

【ISOの建て直し@−品質会議での再構築】

 当社では、2007年暮れの品質会議で、ISOの再構築を討議しました。

 そこでは、この年の失敗を総括し、月1回、議事録と作業報告書の作成枚数を点検すること、保管記録の作成を点検し、最新版の管理を確実にし、各開発プロジェクトを終結させることを当面の重要な課題として設定しました。これは、お客様の要求事項とお客様との合意事項を明確にし、またプログラムソースコードの管理を確実なものにすることに、その目的を置いていました。

 同時期に、プロジェクトマネージメント研究会を若手社員を軸に組織し、プロジェクトのマネージメントという観点からの研究を行なうようにしました。

 また、開発工程も見直しました。コンピュータソフトウェアの開発は通常、いくつかの工程に分かれて管理されております。当社でも、設計・開発・テストという3つの工程で管理していましたが、これを製品実現工程に一本化しました。

 記録は、それが何のために使用されるのかという視点で再検討し、不要な記録をなくしました。

 開発計画書をプロジェクト管理台帳に一本化し、電子文書化しました。

 これらによって、手順書も簡素化され、業務の流れがより自然になりました。

 

【ISOの建て直しA−内部コミュニケーション】

 次に内部コミュニケーションを強化しました。

 それまでは、毎月1回休日の土曜日に責任者で開催していた品質会議を水曜日に移し、通常の定時内に全員参加で開催するように切り替えました。そこでは毎月、経営の状態を数値で報告し、確認するようにしました。また品質目標の達成状況との関係で毎月の業務計画を再構築するようにしました。

 ワーキンググループを強化しました。プロジェクト管理台帳の点検を毎週実施するようにしました。部門別の検討会の組織化すすめ、毎日の朝礼では、各自がその日の作業計画を発表するようにし、より計画的に作業を進めるようにしました。

 重点課題については、模造紙に張り出しました。保管が不明確なプロジェクトをリストアップし、必要な資料、コードの再整理の進行状況が容易に確認できるようにしました。

 

【日常的点検を実施】

 このように、内部コミュニケーションを強化した目的は、日常的な点検の強化にありました。

 言葉を変えれば、「内部監査の日常化」ということになるかと思います。当社の規定では内部監査は年2回実施することになっていますが、手順で定められた通り日常業務がすすめられているかどうかを、重点項目を決め、毎週、複数の機会で点検するようにしました。

 「まず標準をやってみる」「実際やってみて、何ができないのかをその場で検討し、解決する」ということを、時間を保障して、集団的に、実際にやるようにしました。

 不適合報告書を日常的に起草するようにしました。不適合の状態を記録に残し、これを品質会議で討議し、不適合の状態を確認し、必要な是正処置を実行し、この改善状況をフォローアップしていくというルートを回すようにしました。

 外部監査の頻度も上げました。当社の場合、会社規模が小さいので年1回の監査でよいらしいのですが、これを年2回にしてもらいました。

 

【経営目標の品質方針化】

 経営目標を品質方針化することもやってみました。

 経営目標を品質方針化することの意図は、どうにかしてISOを経営に役立てたい、利益につなげたいということにありました。

 2007年には、「自社ブランドを立ち上げ、いっそう広範なフィールドに踏み出していく」

 2008年には、「再販可能なソフトウェア製品を5つ開発する」「外注加工費の割合を売上の5%以内に抑える」

 2009年には、「ビッドシステムのソリューションのブランド化を進める」「新規のプロジェクトを計画的、継続的に進める」といった具合です。

 毎月の品質会議で、売上数字を確認し営業戦略を立てることも、ようやく定着化してきました。通常ですと営業の戦略会議で行うテーマではないかと思いますが、当社には営業部門がありませんので、品質会議でこのテーマを扱うようにしました。今年の8月の品質会議には、お世話になっている税理士の先生をお招きして、経営戦略のお話をしていただきました。

 

【実際に行っている内容@】

 当社では、「文書の管理」、「記録の管理」、「プロジェクトの進行状況の管理」、「工数実績の管理」、掲示板を利用しての「タスクの管理(フォローアップ管理)」、「統計分析の管理」をイントラネット上で日常的に実施するようにしました。

 「文書の管理」では、最新版のシステム文書、及び記録の書式が、どこからでも、容易に参照できるようにしました。

文書管理のシステム化

 

【実際に行っている内容A】

 「記録の管理」では、文書番号の取得をシステム化することで、プロジェクトごとで、作成済みの記録と未作成の記録が確認できるようにしましたので、必要な記録の作成漏れを点検できるようになりました。

記録の管理のシステム化

 

【実際に行っている内容B】

 「プロジェクトの進行状況の管理」では、電子文書化されているプロジェクト管理台帳の確認を、毎週の点検打合せで行ないますので、全員で、現在会社が抱えている業務がどのような状態になっているのかを確認することができ、必要な人員の再配置や資源の再配置を行い、プロジェクトが順調にすすむような対策を実施することに活用しています。

プロジェクト進行管理のシステム化

 

【実際に行っている内容C】

 「工数実績の管理」では、当初は受注金額との関係で、投入できる工数を算出し、その範囲内でどのようにして作業を進めるかということに役立てたいと考えました。開発者個々人の原価意識を高め、生産性の向上に結びつけたいと考えたわけです。しかし、まだ現状では、十分機能しておらず、結果実績の管理の域にとどまっております。

実績工数管理のシステム化

 

【実際に行っている内容D】

 掲示板を利用しての「タスクの管理」では、是正処置の状況を始め、追跡管理しなければ項目について記録し、フォローアップが確実にできるようにしました。

掲示板を利用してのタスク管理

 

【実際に行っている内容E】

 「統計情報の管理」では、管理項目として設定した数値に関して、自動的に集計できるようにしてあります。この数値の状況を基本的に月次で確認し、現状分析と対策に役立てるようにしました。

統計情報の管理のシステム化

 

 このようなイントラネットを利用する方法は、当社のISOの推進に役立っているといえます。

 

 以上、利益を上げるISOへの改善という観点で、当社における、これまでのISOに対しての取組と現状について報告させていただきました。

 

【ISOで利益を上げるための当社の課題】

 経営目標を品質方針化することもやってみました。

 最後に、ISOで利益を上げるための当社の課題について、触れさせていただきます。

 利益を上げるためには、原価を抑え、売り上げを伸ばすしかありません。

 まず、原価を抑えるために、ISOの仕組みを原価管理と結びつけたいと考えています。そのための具体的な課題は、「ムダな作業を無くす」「実際の発注書との関係で業務を進める」「限られた工数を意識し、もっとも効率のよい作業手順を進める」「日々意識して、利益を上げる」といったことになります。これらの課題をイントラネット上に具体化し、数値的に確認しながら業務を進めてみたいと考えています。

 もうひとつは営業です。先日、地元の商工会が主催した「差別化」の勉強会に参加し、当社の考えているビジネスモデルを相談してみたところ、「まずは、多くの人々に知ってもらわないことには何も始まりませんよ」「重要な課題は、まず知ってもらうことではないか」と指摘されました。

 当社は、設立当初から、お客様からのリピートオーダーが中心であり、特に営業部門を設けていませんでした。また営業の大変さを感じるが故に、営業を個人の特性や能力に依存した業務の分野として位置づけてしまう傾向が強く、今もその傾向が残っています。しかし、営業というものは、個人の能力・適正の問題ではなく、会社としてのシステムの問題ではないかと考えています。「営業のシステム化」という観点に立って、「顧客の要求事項の明確化と最適な提案」「実績の分析からコアコンピテンシーの見つけ出し」「社内レビューの強化・技術の標準化・再利用の推進」等をテーマにして、当社の営業スタイルを作り出していきたいと考えております。

 これに加え、こういった活動総体にISOを適用すること、すなわち、原価管理、営業推進といったプロジェクト自体をISOで品質管理していくことができるのではないかと考えています。

 

【ISOとは経営そのもの】

 経営目標を品質方針化することもやってみました。

 資料の最後のページに、「ISOとは経営そのもの」と書かせていただきました。経営も、それ自体が大小さまざまなプロジェクトです。ですから、ISOで経営プロジェクトの品質を管理することができると思います。先日、内部監査の責任者に、経営の品質監査も内部監査の対象とする方向で検討するように指示しました。

 当社では、利益を上げるISOといった場合、これまでは、ISOで製品実現工程の品質を管理することで、製品の品質を管理し、結果として利益をあげるということが重要であると受け止めてきました。

 これからは、ISOをガイドラインにして、経営そのものの品質を管理することで、直接的に利益をあげることへの転換できるのではないかということがテーマになっていくと思います。

 正直なところ、当社におけるISOの取組は、これまでまさに、手探りの連続でした。これからもまだ、手探りの状態が続いていくと思います。

 当社は、現在、不況の影響をもろに受けてしまい、かつてない経営上の危機に陥っています。

 しかし、まだまだ当社が果たすべき社会的使命は残っていると思いますので、がんばっていきたいと思います。

 

 以上をもって、事例報告とさせていただきます。

 ありがとうございました。

 

以上